2023/06/06
ここでは大学院で幸運を掴める人とそうでない人について考えてみる
の続編です。
大学院で学位を取得した後の進路は様々ありますが運に左右されます
学術系のポストはなかなか空くことはなく、ポスドク、助教、講師、准教授、教授になるためにはたくさんのハードルがあります
ピラミッド型の出世コースから溢れ、結局全く関係のない仕事をする人も多いです
研究室という閉鎖空間で心が病んでしまう人もいました
一方でアメリカ、シンガポール、ドイツで活躍する先輩、友人、後輩は輝いて見えます
私自身は留学のチャンスを伺いながら、様々な研究室にお世話になりました。今となっては「海外経験」という肩書きに囚われて迷走していた気がします。
研究していた当時は自分のやりたい研究をやらせてもらっていたとは思いますが、ライフワークとなる様な学問を構築することはできませんでした
いや、構築する執念は今となってはなかったなと思います。論文にするために、あのデータも、このデータも取らなくてはならない。機器はあるけど、研究室内に使い方、考察に詳しい人がいない。
自分でゼロから始めなくてはならない実験に追われ、真夜中の地下の分析室で、よくわからないデータが現れた時、期限までの学位取得は無理だと思いました。
そして、プツっと「あ、もっ、辞めよ」
となり、研究室に行かなくなりました。
面倒を見ていた後輩などはいませんでしたが、様々な研究に関わっていたため、無責任な行動だったな。と反省しています。
失意のどん底でしたが、お陰様で、研究室の仲間とは普段通り食事をしたり、スノーボードをしたりと、自宅に引きこもるようなことはありませんでした。
ただ、今後の人生どうしようかと思っても答えは出ず、ダラダラした1日を過ごす日もあり、貴重な時間を無駄にしている状態でした。
『このままではいけない』と、1日本屋で立ち読み(座り読み)することもありました。
そんな時に読んだ本👇
今となっては、原因は自分にあることを痛感しているのですが、当時は自分の置かれた状況を他人のせいにしないとやってられませんでした。
この書籍に記された「机を叩いて怒る」など、その9割が研究室の教授に当てはまっており、自分の選択を肯定する材料としました。
ちなみに、立ち読みで完読した後、買って帰りました(笑
精神科を受診
不眠症ではなかったのですが、朝起床したものの外出する気力もない日が何日かありました。薬に頼ったところでどうなるかはわかっていたので、「薬に頼らない」を謳(うた)い文句にしている精神科を見つけ受診してみることにしました。
薬剤師であること、研究に行き詰まって悩んでいる事情を伝えました。
精神科医から告げられた言葉は
「経歴を聞いた限り、サイトーさんのような方に効くかわからないのですが、誕生日から星座を、、、」
「サイトーさんの性格は、、、」
「、、、ですから必ず良くなりますよ。」
と言ってよくわからない数字が書かれた紙を渡され、30分、3000円でした。
客観的な意見をくれると思いきや、星座の話をされました。この時思ったのです。結局自分を信じて道を切り開くしかないと。
お陰様で、完全に開き直ることができました。笑
博士課程を満期退学する者を雇ってくれるような企業、研究室はあるのか?
オーバードクターとなれば奨学金の貸与もなくなるどころか、返済していかなくてはなりません。なんとか働きながら論文博士という形で学位を取得できないものか模索しました。
「日本の博士号は足の裏に付いたご飯粒みたいなもの」
と、よく言われているように
とらないと気持ち悪くて、とっても食えない
そんな呪縛に囚われていました。
当時は薬学部を新設する大学が多くあり、研究室スタッフの公募が意外にもありました。しかし、現実は厳しく、有名大学は書類で落とされ、面接まで漕ぎ着けても偏差値40くらいの大学で、研究費など全く見込めないという状態でした。
公募した先生自身も国立大を定年退職して小遣い稼ぎに私大の先生をやろうと思っている程度だと明かしてくれ、食堂でお昼をご馳走してくれました。
「Welcomeだけど苦しいよ」とのことでした。
捨てる神あれば拾う神あり
薬が生まれる過程はざっくりと言うと、合成、動物実験、臨床試験の3段階です。
私は創薬を制する研究者の技術として、合成する、試す、分析するという3つの技術が必要だと考えていました。
それまで、合成や動物実験、製剤試験、製剤工夫などの研究に携わり多くの技術を取得してきました。その中で、分析機器の使用はどの実験においても必須でした。そんな分析機器の開発に携われる研究をしたいと考えていたところ質量分析に特化した研究室を偶然見つけました。
その研究室の教授がT大学で講演するチラシをネットで見つけたのですが、見つけた2日後に開催される予定でした。
T大学は車で1時間30分くらいで行けたため「これだ!!!」
と思い、講演を聞きに行くことを決めました。
当日は大雪で1時間30分どころか、3時間近くかかり到着。
会場は階段教室やホールのようなところかと思っていましたが、キャパ50人くらいの講義室でした。
公に発信しているものの、比較的プライベートな知り合いの先生同士の講演だったようで、部外者は私一人。
医局の仕事を終わらせた白衣の先生たちばかりで満席の教室に、一人ポツンと最前列に場違いな人(私)。そんなドAWAYな講演会の質疑応答で真っ先に手を挙げ
「私はDDSに興味があり、その分野にこの最新の分析機器を使用しているような研究はありますか?」
という質問に「ないです、是非やってください」
と言う回答をいただいた。
公演後、雑談する機会をいただき、後日研究室で面談する約束をいただいた。
面談の結果、雇うことはできないけど、アイデアは素晴らしいので、自由に分析機器を使っていいと言っていただき、研究生として在籍し論文博士の取得を目指すことになった。
調剤薬局でフルで働きながらではあったが、平日休み、夜間、日曜日を使って充実した研究生活を送ることができた。
人間的にも成長することができたと思う。成功体験の少なかった私に対して、まずは小さな実績でもいいので、日本語の論文を学会誌に挙げてみよう。という提案をいただき、学会誌に研究成果を発表した。
学会誌ではあったものの、質量分析器機の機運が高まっていたことが幸いし、その後も同様の日本語雑誌に2件投稿することができた。
その後、温めていた自分のアイデアを企業に提案し、共同研究の確約と300万円ほどの研究費もいただけることになった。
残念ながらその研究で論文を残すことはできなかったのだが、夜中の地下分析室でポッキリと折れたあの日から長いトンネルを抜け、最終的に博士号を取得しことはできた。
捨てる神あれば拾う神あり
と、まるで自分は捨てられたかのような他力本願の考え方ではあるが、研究の方向転換の節々で協力してくださる先生方がいたのはとてもありがたく、幸運であった。
運
科学論文を書くスキルを持っているという証に博士号をもらえますが、論文の質については実力だけでなく運も必要です
運を掴むためにそれを逃さないスキルを身につけなくてはならない
金脈が足元にあっても金を見つける目、掘る技術、精製する技術が無ければ意味がありません
金脈を見つけるために土俵に立ち続ける精神力も必要です
有名な風刺画👇
一見、研究の世界の「あるある」に見えますが、これほど単純ではありません。
ダイヤモンドの目の前にツルハシ(現在の技術)では崩せない硬い壁があり、下から掘らなくては辿り着けないのかもしれません
仮に辿り着いたとしても、ダイアモンドだけでなく、様々な宝石が原石として存在し、磨けば価値のあるものになるかを見極める知識も必要です。
研究の世界では一つの成果に向かって様々な人がアプローチをしています。競争相手が多い分野と、重箱の隅を突いたようなマニアックな研究があります。
目的の場所にたどり着くには何にしても、手を替え品を替え、悩みに悩みます。
大学院に進学しようと考えている人には是非、運を掴むために身を粉にして精進してもらいたいです
但し、研究を突き詰めていくと引き返さなくてはならない時が稀にあります
そんな時に助けてくれるのは苦楽を共にしている友人や恩師です
研究室というところはテーマによっては孤立しがちです
普段からお互いの研究内容を理解し合っておくことが重要です
次回以降のネタ👇
・苦楽を共にする生活・・・夜中に窒素を汲みに行く
・追い込まれる留学生のデータ改ざん・・・オーバードクターできないプレッシャー
・研究室の崩壊・・・見捨てられた院生
・研究室のお金事情、将来性・・・研究室によって使い捨て、洗って再利用
・出力することの意味・・・頭でっかちな自分