2023/06/06

【はじめに】
薬剤師として社会に出ると企業や医師、薬剤師の先生のプレゼンを聞くことが多くなる。その際、間違ったグラフや図の表し方に遭遇することが多々ある。
ここではそのようなプレゼンに惑わされないよう、私の体験を愚痴(笑)を含めながら解説する。
【グラフの捏造に気づかない大先生】
先日、「人口減少と共に処方箋の枚数も減るから頑張ろう!」というプレゼンがあった。60歳前後の大先生が、わが社のためにご教示してくださった。
下のグラフは関東の処方箋枚数の推移及び予測である(仮)。横軸西暦、縦軸処方箋枚数だ。
同様に東北のグラフを下に示す。
いずれも2025年付近をピークに処方箋枚数は減っていくことが予想されているとのこと。
これらを比較して「地方(東北地方)の処方箋は関東の様な都会に比べて減りが激しくなるので頑張ろう!」と言うのだ。
結論から言うとこのグラフは捏造だ。差があるようにグラフが拡大されている。
このような捏造のグラフに騙されぬために基本的な知識は持っておかなくてはならない。
グラフを見てまず初めに確認する場所はゼロの位置である。
このグラフの横軸の最小値は0ではなく、西暦2015年である。
西暦0年から処方箋の枚数の議論をするバカは流石にいないので、横軸の示し方は問題ない。最大値も関東、東北そろっているので問題ない。
一方、縦軸の最小値は関東、東北それぞれ
600,000、525,000である。
最大値はどうだろう?
縦軸の最大値、関東は900,000、東北は600,000で、それぞれの最大値から最小値を引くと関東は300,000、東北は75,000であることに気づく。
4倍も違う。
ということは東北のグラフは関東に比べて縦に大きく拡大されているということだ。
変化を見やすくするためにグラフを拡大することは往々にある。
しかし、拡大率の異なるグラフを比較するなど愚の骨頂である。
このように、比較しているグラフが別のシートになっている場合、まずはそれぞれのグラフの最大値、最小値を確認しなくてはならない。
そもそも、これら二つのグラフを比較する場合、別のシートにしてはいけない。😮💨
これらを同じシートで比較した場合のグラフが
👇
このグラフから関東と東北の処方箋枚数の推移は形状がほぼ同じであることに気づく。
なんなら関東の方が傾きが急で減ってそうな感じも受ける。そもそも大先生の言うプレゼンとは全く逆の事実となってしまっているのだ。
このプレゼンはオンラインで行われたのだが、グラフが示された直後、違和感を感じた私はすぐさまスクリーンショットをし、エクセルを立ち上げ数値を入力して3番目のグラフを作成し、気づいたのだった。
しかし、ここで「このグラフは捏造ですね。」と発言しようものなら、この大先生のメンツは丸つぶれである。
薬局の経営者は自分の会社の発展のために横のつながりを広くする。それはとてもいいことだ。信頼を置く人物に会社の顧問的な立場にいてもらうのは経営者としてはとても心強い。薬剤師として40年以上の経験は貴重で薬局業界の未来のためにも尽力していただきたい。一方で、年齢と共に考えは固執し、これまでの成功体験がそれを肯定して変化をゆるさない。
おそらくこの大先生には悪気はない。捏造している自覚すらないのだ。というより、たまたま見やすく拡大したら差があるように見えたのであろう。40年の経験もグラフの作成においては役に立たなかったようだ。
従業員である以上、そんな大先生や、社長のメンツを潰さないよう、スルーすることも中年おじさんになってくると大切になる。ついでに、このデータの出典が書かれていなかったので、「ご自分で調査したデータですか?」とも聞きたくなった。おそらく顧問料、謝礼的な報酬を得ているだろうと察したからだ。
【製薬会社とて信用するな】
MRさんが持ってくる営業のプレゼンにも同様の間違いが見受けられることがある。
・サンプル全体を表示せず、光ってる一部だけを示す蛍光顕微鏡画像の捏造。
・美肌美人のおねーさんの顔にPhotoshopで皮膚病を重ねて作ったパンフレット
・プロドラック化して吸収率が良くなっただけなのに、骨密度が優位に改善するかの様なうたい文句の新薬(ゾロ新)。
正直、お弁当目的の、勉強会と称するメーカーの営業プレゼンで手を挙げて指摘したところで、MRに罪はなく、何も言えない。(追求しても仕方ない)
社会人になって世の中をうまく渡っていくために、目の前にある嘘に拍手を贈ることも大切なことなのだ。
まとめ
正論を語り、下手に出しゃばって、大御所のメンツを潰したところでメリットはない。残念ながら嫌われる。処方箋の枚数が人口減少と共に全国的に減ることには変わりない、頑張らなくてはならないことにはかわりない。
一方で、大学院生は同様のケースに遭遇した場合は躊躇なく自論を主張してほしい。大学院はそういう場所である。失敗を恐れてはいけない。
『雉も鳴かずば撃たれまい』
と思ったら成長できない。