2023/06/06
薬剤師として最もやってはいけないことの一つは、禁忌薬の調剤である。
私は新米薬剤師の時これをやってしまったことがある。それも禁忌薬だとわかっていてやってしまったのだ。なぜか?
【結論】
上司、先輩の言うことは鵜呑みにしてはいけない。
参考にしてもいいが間違っているかもしれないと思え。
【詳細】
春がやってきた。新米薬剤師たちがそれぞれの思いを胸に投薬台に立つ時期だ。
通常、大手の薬局グループや、中堅のグループではオリエンテーションや教育制度により実際に投薬するのは数ヶ月経ってからだ。
一方、私のように学部時代からアルバイトしていた薬局で、ただのアルバイトから薬剤師アルバイト(大学院生しながら)になると、免許発行早々、投薬することになる。しかも個人経営のためか、研修といったら
「まあ、こんな感じで投薬して、わからなかったら何でも聞いて?」
くらいなもんだった。
アルバイトをしながら薬剤師の背中を見てきていたとはいえ、最初の投薬は緊張した。誰しも最初の投薬は緊張するものだ。
皮膚科の門前だったため、処方箋の内容はステロイド外用とアレルギー薬ばかり。禁忌薬を背負っている薬の処方はほぼ無かった。
ただ、水虫の人に処方されるイトリコナゾール(イトリゾール)だけは注意しなくてはならなかった。
国家試験でもよく出題されるイトリコナゾールとトリアゾラムの禁忌。
これをやってしまった。
当時、イトリコナゾールのパルス療法が始まった頃だった。通常より多めの用量で1週間服薬の後、3週間休薬する。すると深部にいる白癬菌を叩きやすくなる。
イトリコナゾールとトリアゾラムの禁忌くらい頭に入っていた新米薬剤師の私ではあったが、働き始めてから数ヶ月後、他科でトリアゾラムを服用中の患者さんがこのパルス療法の処方箋を持参し、投薬することになった。
そこでふと思った。
『休薬中は併用禁忌か?』
初めてのケースだったので上司に相談してみた
私「休薬期間中はトリアゾラム飲んでもいいんですか?」
上司『大丈夫でしょ👌』
と言われ、渡してしまったのだ。
その後、どうも頭に引っ掛かり添付文書を開いてみた。すると、休薬期間中もイトリコナゾールは血中にかなりの量残っていることを知った。
白癬菌を確実に叩くため、投薬期間中は通常よりも高用量で使用し、体の負担を軽減するために休薬期間を設けるかと思った。抗癌剤は確かにこの理論であることが多い。
ただ、血中に残っているのならば禁忌薬を併用すればどうなるかは薬剤師ならばわかる。
ここで、併用とは何か?を考えてみる
患者さんによく聞かれる
「これ一緒に飲んでも大丈夫?」
の質問は、『これらの薬は同時に口に放り込んで大丈夫か?』
である。
または、『胃の中で一緒になっても大丈夫か?』
である。
口にした瞬間、薬が体の中をどう循環して効き目を発しているか、副作用を発現しているかは一般的の人にはわからない。
ましては、休薬期間中に体を循環しているとは普通思わないのだ。ほとんどの人は1日くらいで抜ける、お酒の感覚でいる。
私が犯した失敗は果たして何が原因だったのだろうか?
結局、お渡ししてすぐに添付文書を確認して発覚したため、速やかに電話をし最悪の状況は免れた。
薬剤師の技量を高める上で、新しい情報を常に入れて行くのは大切なことだ。ていうか、当たり前だ。
一方、上司、先輩、同僚、後輩から人との関わりで学ぶことも多い。
普通に考えれば、新米薬剤師として、経験豊富な上司、先輩と関わる方がいいと思う。しかし、意外と反面教師的存在が自分の技量を高めてくれるのかもしれない。
自分の意識の持ち様で、薬剤師はピンにもキリにもなるのだ。
国試の勉強は現場ではほとんど役に立たない。そんな声も聞こえてくるかもしれないが、本当にそうだろうか?
『鉄は熱いうちに打て』
の言葉の通り、新米薬剤師の皆さんにはたくさん打たれて活躍していただきたい。
自分も冷えた鉄にならぬ様、日々精進したい。